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【民事裁判例】お子さんの方からお父さんとの親子関係を否定することは許しません(最判平成26年7月17日)。

スタッフ(2015年4月24日 10:46

<事件のあらまし>
 Y男さんは、A女さんと結婚していました。
 一方で、A女さんはB男さんと男女の仲にありました。(!)
 そんな中、A女さんはXちゃんをお腹に宿しました。でもA女さんは、Y男さんに知られると面倒なことになると思い、こっそりXちゃんを出産します。
  しかし、Y男さんはA女さんが入院している病院を探し当て、A女さんに詰め寄ります。「Xは誰の子なんだ?」と。
 これにA女さんはしれっと答えます。「2、3回会ったことのある男の人の子よ。」

・・・小休止・・・ 

  その後、Y男さんはXちゃんを自分とA女さんの子として出生届を出します。
  しかし、やはり円満な家庭生活は築けなかったのか、Y男さんとA女さんは話し合って離婚しました。そのとき、Xちゃんの親権者はA女さんと定められました。
  それから、DNAを調べると、XちゃんはY男さんの子どもではないという結果が出ました。(B男さんが父である可能性が99.999998%と出たそうです。)
  それから、Xちゃんが2歳になる頃、A女さんは、Xちゃんの法定代理人(※)として、「YとXとの間に親子関係はないことを確認してください」ということを裁判所に求める訴訟を提起しました(これを「親子関係不存在確認訴訟」といいます。)。

※法定代理人・・・本人にかわって法律的な効果を生ずる行為(意思の表示など)をできる人。親とか後見人がこれに当たります。

 

<裁判所のありがたいお言葉(要約)>
原判決破棄、第一審取消。(Xちゃん(A女さん)の訴えを認めた第一審及び第二審の判断を否定し、Xちゃんの訴えを認めなかった、ということです。)

1つ 婚姻関係にある間に生まれた子は、その夫の子であると推定すべし。(民法772条)

1つ 夫の子であると推定される子と、夫との間の親子関係を否定するためには、嫡出否認の訴え(民法775条)によるべし。親子関係不存在確認訴訟によるべからず。

1つ たとえDNAを調べて父子関係がないと判明した場合でもそのこと変わらず。夫の子であると推定されない場合とは、明らかに夫と妻が子作りできない状況下で妊娠したと認められる場合などに限るべし。

 

<筆者のひとり言>
1 ごあいさつ
 
  このページを開いてくださった奇特な読者様、はじめまして。弁護士の稲田です。

 HPに物を書くこと自体が初めてなので、ちょっとドキドキしています。

 文章を書くときは、だれが読むのかを意識して書く必要があるのですが、このページってどういう方が読むのでしょう。
  HPはそこが難しいところです。全世界の方が読めるものですから。

 今回はなるべく漢字を使わないようにして、文章にあまり慣れていない方でも読みやすくなるよう意識してみましたが、いかがでしょうか。
  これからも、もっと読みやすくなるようにいろいろと試していきたいと思います。

 

2 今回取り上げた判決について思ったこと
  

(1)問題点の洗い出し

  まず、今回の判決で何が問題なのか、という点を確認します。

  父と子の親子関係を法律的に否定する方法としては、「嫡出否認の訴え」(民法第775条)というものと、「親子関係不存在確認訴訟」というものが存在します。(あとは、イレギュラーなものとしては「父を定めることを目的とする訴え」というものもあります(民法773条)。)

 「嫡出否認の訴え」というのは、「妻が婚姻中に懐胎した子は、その夫の子と推定する」という民法772条によって、父の子と推定される場合に、この推定を否定するために使われる訴えです。
  この訴えは、行なえる人が父だけで(民法774条)、しかも訴えを起こせる期間がお子さんの出産を知ってから1年間だけなのです(民法777条)。
 
  これに対して、民法772条の推定がされない場合は、「親子関係不存在確認訴訟」を使えます。これならお子さんでも起こせますし、お子さんが2歳になっても問題ありません。

 今回の事件は、Xちゃんからの訴えで、しかもXちゃんが1歳を過ぎた時期だったことから、親子関係不存在確認訴訟しか使えない状況でした。

 そこで、親子関係不存在確認訴訟が使えるのか、すなわち、XちゃんはY男さんの子どもであるという民法772条の推定が働かないといえるのか、が問題となったのです。

 まず、A女さんはB男さんと結婚している間にXちゃんを身籠ったことは間違いないので、形式的にみれば、民法772条の推定が働きます。

 ただし、これまでは、例え結婚している間に身籠ったとしても、その時期が明らかに夫との子作りは不可能な期間だった場合(夫が海外赴任中で、一度も帰国の記録がない場合とか)には、民法772条の推定が働かないと考えられてきました。

 今回、Y男さんにはこのような事情はないものの、DNA鑑定で血縁関係が科学的には否定されたといえるでしょう。
  このような場合にも民法772条の推定が働かなくなるのかどうか、という点が問題となったのです。

 

(2)裁判所の判断
 
  裁判所の結論は、推定は覆らない、すなわち、DNA鑑定で科学的には血縁関係が否定された場合でも、民法772条の推定は働き、親子関係不存在確認訴訟は使えない、というものでした。
  (これにより、Xちゃんは、6歳(一定の場合は8歳)になるまでに誰かと特別養子縁組を結ばない限り、一生Y男さんの子どもである、ということになるかと思います。)

  裁判所としては、生物学的なつながりよりも、親子として生活してきた実績、いわば社会的つながりを重視したようです。

 

  ただ、裁判所が危惧しているのは、次の点のようです。

①民法の条文との整合性(櫻井龍子裁判官の補足意見)
     民法は、婚姻中に身籠った子は夫の子と推定することを原則としており(民法772)、それを否定する方法としては夫からの嫡出否認の訴えによるべしとしていること(民法774条・775条)との整合性が取れない、ということでしょうか。

②次のような事案の出現(山浦善樹裁判官の補足意見)
   ― ずっと父子家庭で育てられてきた子どもが、ある日DNA鑑定をしたところ、父との血縁関係がないことが判明した、それで突然、父が親子関係を否定する訴訟を提起したことで、育ててくれる人がいなくなり、路頭に迷ってしまった。 ―

 

 もっとも②については、信義則違反だとか、権利濫用といった法理で片付ければよいのではないかな、という気がします。(もっとも、櫻井龍子裁判官は、このように個々の事案ごとに場当たり的な解決をすることは好ましくなく、法律を改正して解決すべきだ、としています。)

 また、①については、櫻井龍子裁判官自身が、DNA鑑定といった科学技術の進歩と現在の民法条文との整合性に疑問をもっているのですから、そのような疑義の生じている条文との整合性を果たしてどれほど重視すべきなのでしょうか。
 むしろ、条文に疑義が生じているのであれば、最高裁判所が先導を切って疑義を表明するのが職責である気もします。

 5人中、2人の最高裁判事が反対意見を付していることからもわかるように、裁判所内部でも意見が割れたようですね。

 現在、民法の債権部分については改正手続が進んでいますが、もしかしたら民法774条や772条あたりについても、今後改正の動きがあるのかもしれません。

 なお、A女さんが再婚した後で、再婚相手がXちゃんと特別養子縁組を結べば、XちゃんとY男さんの父子関係を法律的に断ち切ることは可能です。しかし、そのためには、Y男さんが特別養子縁組に同意するか、又はXちゃんの「利益を害する事由がある場合」である必要があるので(民法817条の6)、こちらのルートは難しかったのかもしれません。

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